仕事のために始めた学びが、自分自身の生き方にもつながっていた。そんな経験はないでしょうか。

私にとって、コーチングを学ぶことは、その連続でした。

人の成長を支える自分も、成長していたい。そして、その学びによって、自分自身もよりよく生きていきたい。

私が学び続けている理由は、この両方にあります。

経営者やアスリートの方々と、コーチとして関わる中で、人が変わっていく姿を何度も見てきました。そのたびに、うれしくなると同時に、もっと知りたくなります。

なぜ、この人は一歩を踏み出せたのだろう。そのとき、心の中では何が起きていたのだろう。

そうした疑問から、さまざまなことを学んできました。そして、人を支えるために始めた学びは、私自身の生き方も変えてくれました。そのことが、次の学びへ向かう理由にもなっています。

自分を知る学びが、心を軽くしてくれた

コーチングを学び始めた頃、並行して取り組んだものに、「パーソナルファウンデーション」というプログラムがあります。自分自身を理解し、心の土台を整える学びです。

人の話を聴くとき、私たちは、自分の経験を通して相手を理解しようとします。それが助けになることもあれば、相手の話を十分に聴く前に、分かったつもりになることもあります。

たとえば、相手が親との関係を話しているとき。自分にも似た経験があれば、「きっと、こういうことだろう」と捉えてしまうかもしれません。自分の中で整理できていない思いが、相手への問いかけに入り込むこともあり得ます。

だからこそ、相手と向き合う自分が、何に反応し、どんな思い込みを持っているのかを知っておく必要がある。コーチとしての学びは、自分自身に目を向けることにもつながっていました。

その中で印象に残っているのは、日々の小さな気がかりに向き合った経験です。

革靴のつま先についた傷。気に入らないまま使い続けているゴミ箱。果たせないままになっている、友人との約束。

一つひとつは小さなことです。それでも、書き出してみると、自分がずいぶん多くのことを気にかけながら暮らしていたと分かりました。

靴を手入れするなど、できることから一つずつ片づけていく。すると、驚くほど心が軽くなったのです。

こんな小さなことも、自分の心に引っかかっていたのか。

自分のことは自分が一番よく知っていると思っていても、気づいていないことがある。その実感がありました。

学びを通じて、見栄を張ったり、自分を守ろうとしたりする反応にも目が向くようになりました。自分では当たり前になっていた振る舞いが、人との関係にも影響していたと気づくことがありました。

心の中の引っかかりが減ると、自分が何をしたいのか、どちらへ進みたいのかも見えやすくなりました。人を支えるために必要だと思って取り組んだことが、私自身の暮らしや、人との関わりを見つめ直す機会になったのです。

私はこのプログラムが好きで、繰り返し取り組みました。学ぶほどに、自分の生き方に返ってくるものがあったからです。

人の変化を、自分の経験だけで捉えない

一方で、コーチとして現場に立つと、人の変化について、まだ分からないことに出会います。

変化が速やかに進む人もいれば、なかなか進まない人もいる。その違いには何が関わっているのか。

私が関心を持ったのは、その人の「態度」でした。目の前の出来事をどう受け止め、どのような心持ちで関わるか。成果を収める人の中には、難しい状況でも積極的な態度を保っているように見える人がいました。

そうした態度は、どのように育つのだろう。意図的に身につけることはできるのだろうか。

この問いを、大学院での研究につなげました。関連する論文を読み、中村天風の「絶対積極」という考え方も検討しました。現場で感じていたことを言葉にし、ほかの人の研究と照らし合わせて考えたのです。

研究は一つの論文になりましたが、提案した評価方法の有効性など、検証すべき課題も残りました。人の変化について、これですべて分かったという答えが出たわけではありません。

それでも、目の前の人を理解するために、自分の知っている範囲を広げていくことには意味があると思っています。相手の可能性を、自分の経験だけで捉えてしまわないためにも。

人を支える学びは、自分の人生にも返ってくる

こうした学びを続けてきたことに、私自身はあまり「努力してきた」という感覚がありません。コーチングを学び始めた頃も、プロになりたくて、夢中でした。知りたいことがあり、やってみたいことがある。その気持ちで学んできました。

そして、自分が成長し続けていることが、クライアントの刺激にもなっているようです。学んだ知識だけでなく、学びながら変わっていく自分自身も、人との関わりの一部なのだと感じます。

私が学び続けているのは、目の前の人の成長に関わる自分も、成長していたいからです。

自分の思い込みに気づき、人への理解を深める。その過程で、自分の心が軽くなったり、生きたい方向が見えてきたりする。学びは、人を支える力になると同時に、私自身がよりよく生きるための力にもなってきました。

誰かのため、仕事のために学んだことが、自分のものの見方や、日々の過ごし方を変えてくれる。あなたにも、そうした経験があるかもしれません。

これまでに学んだことで、人との関わりと自分の暮らしの両方に残っているものは、何でしょうか。

私にとっては、自分を知り、人をより深く理解しようとする学びが、それにあたります。

人を支えるために学ぶ。その学びによって、自分の生き方も変わっていく。

この両方があるから、私はこれからも学び続けたいのです。


文中で触れた論文:「積極的な態度の効果と影響についての研究」山家正尚/武蔵野大学『人間学研究論集』第13号