雰囲気がよく、互いに気遣いができる。大きな衝突もなく、会議も穏やかに進む。

そのような組織は、とても居心地のよい場所です。人間関係の安心感は、組織にとって大切な土台です。

けれども、「仲がよいから大丈夫」と思っている組織ほど、ときどき確かめておきたいことがあります。

私が女子アイスホッケー日本代表チームのメンタルコーチを務めていたときにも、「仲はいい。でも、本当に一体化しているだろうか」と感じることがありました。目標は共有されていても、一人ひとりの見方や思いまで十分に話し合えているとは限りません。

本当に必要なことを、率直に話せているでしょうか。

関係を守るために、言葉を飲み込んでいないか

仲のよい関係では、相手を傷つけたくないという気持ちが働きます。

少し気になることがあっても、「今は言わないほうがよいかもしれない」と考える。反対意見があっても、「せっかくまとまりかけているから」と控える。誰かに負担が偏っていても、「本人が何も言っていないから」と見送る。

一つひとつは、相手への優しさから生まれた判断かもしれません。

しかし、言葉にされなかった違和感は、なくなったわけではありません。見えないところに残り、少しずつ判断や行動のずれとして表れます。

会議では決まったのに、実行が進まない。表面上は協力しているのに、内心では納得していない。ある日突然、退職や大きな対立として現れる。

関係を守るための沈黙が、長い目で見ると関係を弱くしてしまうことがあります。

「仲がよい」と「信頼している」は少し違う

仲がよいことは、同じ時間を心地よく過ごせることです。

信頼していることは、意見が違うときにも、その違いを持ち込めることです。

もちろん、どちらも大切です。ただ、組織が変化や難しい判断に向き合うとき、心地よさだけでは越えられない場面があります。

新しい事業へ進むのか。これまでのやり方をやめるのか。誰が責任を担うのか。限られた資源をどこへ配分するのか。

正解が一つではない問いを扱うとき、異なる見方が出るのは自然なことです。

その違いを「関係を壊すもの」と捉えるのか、「よりよい判断のための材料」と捉えるのか。ここに、組織の対話力が表れます。

対話は、相手を説得する時間ではない

対話というと、意見を出し合い、最後には一つの結論へまとめることだと思われがちです。

けれども、結論を急ぐほど、相手の言葉を「賛成か反対か」で聞いてしまいます。

本来の対話では、相手がなぜそう考えるのか、その背景を知ろうとします。何を守りたいのか。何を心配しているのか。どの経験から、その判断に至ったのか。

理由が見えると、単純な対立だと思っていたものが、実は異なる時間軸を見ていただけだと分かることがあります。目的は同じでも、優先順位やリスクの捉え方が違っていたと気づくこともあります。

そこで私は、選手同士、選手とスタッフ、スタッフ同士の対話の量と質を高めることに取り組みました。考え方の違いや解釈のずれ、言葉にしていなかった思いを出し合い、理解をすり合わせていく。その積み重ねが大切なのだと思います。

対話は、違いを消すためではなく、違いの意味を理解するための時間です。

率直さと優しさは、両立できる

本音を話すことは、強い言葉をぶつけることではありません。結論だけでなく、自分がそう考えた背景を添え、相手の背景も聴くことです。

次の会議では、まとまりかけている議題を一つ選び、決定する前に次の問いを置いてみてはいかがでしょうか。

「この案を進めるうえで、気になっていることや、まだ確かめておきたいことはありますか」

「反対はありませんか」だけでは出しにくい、小さな懸念を尋ねるための問いです。すぐに答えが出なくても、沈黙を賛成と決めつけず、考える間を取ります。

意見が出たら、まず「そう考える理由を、もう少し聞かせてください」と尋ねます。たとえば負担の偏りが話題になったなら、「どの仕事で、どんな負担を感じていますか」と、具体的な場面を確かめます。

聴く側は、「つまり、ここを心配しているのですね」と自分の理解を返し、合っているかを確かめます。理解することと、その場ですべての意見を採用することは別です。

最後に、出てきた懸念と、決めたこと、まだ確かめることを分けて共有します。意見が採用されなかった場合にも、どう考えて判断したかを伝えることが、次に話せる関係につながるのではないでしょうか。

これは会議で試せる一つの進め方です。率直に話すことだけを相手に求めず、話を受け取る側の応答から整えていきたいと思います。

よい関係だからこそ、話せることがある

仲のよさは、対話を不要にするものではありません。

むしろ、築いてきた関係があるからこそ、まだ言葉になっていない違和感や異なる意見を、安心して持ち寄ることができます。

気を遣わなくてよい関係ではなく、気遣いながらも必要なことを話せる関係へ。

その一歩が、表面的な一体感を、変化に耐えられる信頼へ育てていくのではないでしょうか。

あなたの組織にはいま、「仲がよいからこそ、まだ話していないこと」はないでしょうか。次の会議で一つだけ、結論の前に確かめたいことを言葉にしてみてください。

この記事のもとになったFacebook投稿(8月13日)

まだ話していないことに目を向ける

関係を大切にするあまり、チームで話せずにいることはありませんか。初回オリエンテーションでは、その一つの場面をお聞かせください。相手を説得する方法を探す前に、何を伝え、どんな違いを確かめたいのか。ご自身の問いを言葉にするところから始めましょう。

このテーマからのご相談経営者・管理職向け

経営の意思決定、リーダーシップ、組織や部下との関わりを相談したい方。 申込画面で選び直すこともできます。

初回オリエンテーションへ

オンライン・60分。プログラムの一部を体験いただけます。