また、部下に言えないまま、一日が終わってしまった。
約束した期日に間に合わなかった。提出された資料が、期待していた水準に届いていない。でも、本人も頑張っている。ここで指摘したら、意欲をなくしてしまうかもしれない。
そう考えて、「今回は大丈夫」と自分で直す。ところが、次も同じことが起きる。伝えなかったことが気になりながら、言い出すきっかけは、ますますつかみにくくなる。
叱ることが苦手な管理職の方に、まず考えてみてほしいことがあります。
その言いにくさの中で、自分は何を守ろうとしているのだろうか。
「傷つけたくない」の奥にあるものを確かめる

私は、優しい会社とは、社員の成長と幸せに対して、本気で責任を持つ会社だと考えています。相手の可能性を信じているからこそ、期待することや、改善してほしいことを伝える。そのうえで、困難に直面したときには、温かく手を差し伸べるのです。
一方、波風を立てたくないから黙っているとしたら、少し立ち止まってみたいと思います。
相手が傷つくことを心配しているのか。それとも、自分が嫌われることや、気まずい時間を過ごすことを避けたいのか。両方が混ざっていることもあるでしょう。
ここで自分を責める必要はありません。ただ、自分の安心を保つために黙っているのなら、それを「相手のため」と呼んでよいのかは、確かめたいところです。
何も伝えなければ、本人は「今のやり方でよい」と受け取るかもしれません。あとになって評価の場で初めて指摘されれば、「それなら、もっと早く言ってほしかった」と感じることもあるのではないでしょうか。
期待と事実を、同じテーブルに置く

必要なのは、声を荒らげることよりも、仕事について具体的に話すことだと思います。
たとえば、資料の提出が遅れた場面なら、「もっと責任感を持って」と一言で片づけず、何を約束していたか、何が起きたか、それによって何に困っているかを言葉にしてみます。
「金曜の午前中に確認する予定でしたが、受け取ったのは夕方でした。そのため、修正を相談する時間が取れませんでした。途中で、何が起きていましたか」
これは会話の一例です。理由を聞くと、本人の進め方だけでなく、依頼時の説明不足や、別の仕事との重なりが見つかることもあるでしょう。そもそも期日や完成の水準を共有できていたか、上司自身も振り返る必要があります。
事情を聞いたうえで、次に期待する行動は、曖昧にせず伝えます。
「次回は、間に合わないと分かった段階で相談してほしい。途中で確認する時間も、一緒に決めておきましょう」
相手の尊厳を大切にすることと、仕事の基準を示すことは、両立できると考えています。安心して問題を扱える土台については、心理的安全性は「優しさ」だけではないでもお話ししました。今回は、その土台の上で、個別の期待をどう伝えるかを考えています。

伝えたあとにも、成長に関わり続ける

言いにくいことを伝えて、ほっとする。それで終わってしまうと、対話が上司の気持ちを整理する時間になってしまうかもしれません。
大切なのは、そのあと、本人が何を変えられるかです。
何を、いつまでにするのか。途中で困ったら、誰に相談するのか。上司は何を支援できるのか。そして、いつ一緒に確かめるのか。全部を一度に決める必要はありませんが、次の一歩だけは共有しておきたいと思います。
次に話すときには、足りない点だけでなく、実際に変わった行動にも目を向けます。「今回は早めに相談してくれたので、一緒に調整できました」。そのように、本人の行動が仕事へどうつながったかを伝えることも、成長を支える関わりです。
厳しいことを伝える勇気と、そのあとも支える姿勢。その両方があって、温かさと厳しさが共存するのだと思います。
いま言えずにいることを一つ思い浮かべてください。相手にどうなってほしいから、その話をするのでしょうか。そこから、最初の一言を考えてみませんか。
本記事は、山家正尚のFacebook投稿「優しい会社と甘い会社の違い」をもとに、会話の例と実践の問いを加えて再構成しています。
言えずにいる一言を、対話の入り口に
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