「こちらは、もう渡しています」
「必要な情報が足りないので、まだ進められません」
営業と制作、現場と管理部門、採用担当と配属先。仕事が部門をまたぐところで、このようなやり取りが起こることがあります。
それぞれは自分の仕事を進めています。それでも、お客様や次の担当者から見ると、全体の仕事は止まったままです。
こうしたとき、相手の協力姿勢を問いたくなるかもしれません。しかし、その前に確かめたいことがあります。部門と部門の間にある「受け渡しの仕事」は、誰かが担うものとして設計されているでしょうか。
自分の完了と、相手の開始は同じではない

依頼を送った。資料を共有した。管理表を更新した。送り手にとっては、それで自分の仕事が終わったように見えます。
一方、受け手には、作業を始めるための条件があります。
何をつくるのか。どこまで合意されているのか。期限は確定なのか。迷った場合に誰へ確認するのか。資料のリンクが届いていても、その条件が揃っているとは限りません。
たとえば、顧客からの依頼を制作担当へ渡す場面を考えてみます。希望日だけが伝わり、その日までに何が必要かが曖昧なら、担当者は優先順位をつけられません。送り手は「早く着手してほしい」、受け手は「先に内容を確かめてほしい」と考え、待ち時間が生まれます。
必要なのは、どちらが正しいかを決めることだけではありません。送り手の完了と、受け手が開始できる状態の間に、何が抜けているかを見つけることです。
書類を増やす前に、受け手の困り方を見る

受け渡しに問題があると、入力項目を増やしたくなります。しかし、使われない項目が増えれば、記入する負担だけが残ります。
まずは、実際に止まった仕事を一件選び、その仕事がどこを通ってきたかをたどってみてください。
何が届いたのか。何が分からなかったのか。誰に聞いたのか。返事を待つ間、何ができなかったのか。原因を性格や部署の文化に求める前に、具体的な流れを見ます。
すると、「担当者が未定だった」「期限が希望か確約か分からなかった」「最新版の所在が二つあった」といった、扱える問題に分かれていきます。
受け手に聞きたいのは、「何の情報があれば、最初の作業に着手できましたか」ということです。
その答えをもとに、最低限の情報を揃える。すべてを完璧に決めてから渡すのではなく、未決事項があるなら、何が未決で、誰がいつ確かめるかも一緒に渡す。曖昧さを隠さない受け渡しにします。
渡したことではなく、受け取れたことを確かめる

仕事の受け渡しは、送信の記録だけでは完結しません。
担当者が内容を理解し、着手できるのか。不足があるなら、何を待っているのか。この受領の確認まで、簡単な形で揃えておきます。
たとえば、「資料を受領しました。構成案は木曜日から着手できます。掲載内容の確定日は、営業担当から水曜日までに共有をお願いします」と返す。進められる部分と、確認が必要な部分が分かれば、送り手も次の動きを判断できます。受領の返事だけで、依頼された納期や内容のすべてに合意したことにはしない。この区別も共有しておきます。
また、通常どおりに進まない場合の相談先も必要です。
情報が揃っていても、ほかの仕事で手が埋まっている場合は着手できません。期限や依頼内容が変わったときも含め、どの仕事を優先するかを誰が決めるのか、相談先を明らかにしておきます。担当者同士の気遣いだけで、仕事量の問題まで解決しようとしないことも必要です。
これを担当者の親切だけで支えようとすると、気づいた人に負担が集中します。誰かが個人的に埋めていた隙間を、チームの仕事として見えるようにすることが大切です。
一つの受け渡しを直し、全体の流れで確かめる

すべての部署のルールを一度に変える必要はありません。
まず、よく止まる受け渡しを一つ選びます。必要な情報、受け取りの返し方、例外時の相談先を、関係者で小さく決めて試してみます。
そのあとに見るのは、一方の部署が楽になったかだけではありません。確認の往復は減ったか。着手までの待ち時間は変わったか。別の担当者に負担が移っていないか。お客様への約束は守りやすくなったか。仕事全体を通して確かめます。
数値を厳密に集める前でも、前回と今回の一件を並べれば、変化の手がかりは得られます。うまく働かなかった項目は、増やし続けずに見直します。
部門の壁は、仲よくなれば自然になくなるとは限りません。互いに協力する気持ちがあっても、その協力が届く仕組みは必要です。
あなたの組織で、誰かの気遣いだけに支えられている受け渡しは、どこにあるでしょうか。その接点を一つ整えることが、全体の仕事を動かす一歩になるかもしれません。
仕事が止まる接点から考える
部門の間で繰り返し止まる仕事や、誰かの気遣いに頼っている受け渡しはありませんか。初回オリエンテーションでは、その一場面をお聞かせください。相手の困り方と、ご自身の立場から見えていることを言葉にし、どこから対話を始めたいかを考えてみましょう。
経営の意思決定、リーダーシップ、組織や部下との関わりを相談したい方。 申込画面で選び直すこともできます。

