「この件は、あなたに任せます」

そう伝えたあとで、資料の書き方を細かく直し、進め方を指定し、最後は自分で仕上げてしまう。心当たりはないでしょうか。

相手を信頼していないわけではありません。お客様に迷惑をかけたくない。期限に間に合わせたい。自分の経験を役立てたい。その思いから手を出していることもあるでしょう。

ただ、任せたはずの仕事を繰り返し取り戻していると、相手には「最後は上司が決める仕事」として伝わります。任せる側の善意と、任された側に残る経験が、ずれてしまうのです。

今回は、仕事を渡したあとに、リーダーが何を持ち続け、何を手放すのかを考えてみます。

手を出す前に、何が気になったかを確かめる

たとえば、部下がつくった提案書を見て、すぐに修正したくなったとします。

その違和感は、事実の誤りでしょうか。お客様との約束を守れない内容でしょうか。それとも、説明の順序や言葉選びが、自分の好みと違うのでしょうか。

この三つを一緒にすると、必要な指導と、上司のやり方への統一が混ざります。

事実の誤りや約束に関わる問題は、放置できません。一方、目的を満たす別の方法まで直してしまえば、相手が考えたことは成果物に残りません。見た目は整っても、自分で判断した経験は薄くなってしまいます。

修正を始める前に、「守るべき基準に届いていないのか、それとも私と違うだけなのか」と確かめてみてください。

リーダーの経験を手放す必要はありません。ただ、その経験を唯一の正解として使うか、相手が考えるための材料として使うかは、選ぶことができます。

作業と一緒に、判断できる範囲を渡す

「自由にやっていい」と言われても、どこまで決めてよいか分からなければ、人は動きにくくなります。

任せる前に共有したいのは、完成させるものだけではありません。何を満たせばよいか、本人が決めてよいことは何か、どんな場合に相談するかです。

先ほどの提案書なら、お客様が解決したい課題、提出期限、約束できる範囲は先に揃える。資料の構成や説明の順序は担当者に委ねる。一方、新たな費用や納期の変更が生じる提案は相談する。このように境界を具体的にします。

細かな手順をすべて指定するのではなく、判断の枠を共有するのです。

任された側からも、「この範囲は自分で決め、この条件になったら相談する、という理解でよいですか」と言葉にしてもらうと、曖昧なまま出発することを減らせます。

責任だけを渡し、必要な権限や情報を渡さない状態になっていないか。任せるという言葉の中身を、一度点検したいところです。

確認は、監視ではなく途中の支援にする

任せることは、最後まで何も見ないことではありません。

途中で確認する時点を決めておけば、担当者も「突然取り上げられるかもしれない」と構えずに進めやすくなります。完成後に全体を直すより、まだ選び直せる段階で話すほうが、双方の負担も小さくできます。

その時間には、完成度だけでなく、本人がどのように判断したかを聞いてみます。

「いま、どこまで進んでいますか」に加えて、「どの選択で迷いましたか」「その進め方を選んだ理由は何ですか」と尋ねる。答えを聞いてから、足りない情報や支援を一緒に確かめます。

相談されたら、すぐに仕事を引き取るのではなく、「ここが確認できたら、次はどのように進められそうですか」と担当者へ戻すことも大切です。

もちろん、重大な影響が差し迫っている場合には、リーダーが介入する必要があります。その際も、何を理由に、どこまで介入するのかを説明し、落ち着いたあとに本人が担う範囲を改めて決めます。介入を、いつの間にか全面的な回収にしないためです。

終わったあとに、本人の判断を振り返る

仕事が終わったら、成果物の評価だけで区切らず、本人が決めたことを振り返ってみてください。

どの工夫が役立ったのか。どこで早く相談できたのか。次に同じ仕事を任せるなら、どの判断まで任せられそうか。

その経験を言葉にすると、一度の仕事が、次の仕事を担う力につながります。上司が直した箇所ばかりでなく、本人の選択が役立った箇所も、具体的に伝えたいものです。成果を支えた行動や条件をたどる方法は、「うまくいった」を、偶然で終わらせないという記事でも紹介しています。

「うまくいった」を、偶然で終わらせないプロコーチジャパン · 読みもの

任せる力は、自分が何もしなくなる力ではありません。相手が自分で判断できる条件をつくり、必要なときには支え、最後に判断する機会を相手へ返していく力です。

いま任せている仕事の中に、やり方の違いを理由に取り戻そうとしているものはないでしょうか。その一つを相手の手に残すために、先に共有できる基準は何でしょうか。

いま任せている一件を、振り返る

任せたはずの仕事に、また手を出したくなる。初回オリエンテーションでは、そんな一件を題材にお話しいただけます。何が気になり、どこまで相手に判断してほしいのか。任せ方と、ご自身の関わり方を見つめる時間を持ってみませんか。

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