締め切りの近い仕事を抱えているところへ、「これもお願いできる?」と声がかかる。難しいと思ったのに、口から出たのは「大丈夫です」。
その場では丸く収まっても、あとから自分の予定が崩れ、頼んできた相手に腹が立ってしまう。たとえば、そんなやり取りを思い浮かべてみてください。
断りにくいのは、仕事の量だけが理由ではないかもしれません。「引き受けないと、相手を大切にしていないことになる」という思いが、返答を狭めている場合もあります。
この記事では、仕事や人間関係を見直す12の視点の一つとして、自分も相手も安心して選べる関わり方を考えます。


依頼への返答と、相手への気持ちは別に考えられる

頼まれごとを断るとき、「この人を拒んでしまう」と感じることがあります。でも、今回の依頼を引き受けられないことと、その人を大切に思っていないことは、同じではありません。
友人から誘われても、今週は休む時間が必要なことがある。大切な同僚からの依頼でも、今日中に引き受ける余裕がないことがある。相手への気持ちだけで、使える時間や力が増えるわけではないのです。
相手を大切にする気持ちは持ったまま、依頼には応じられないことがある。そう考えられると、無理な約束をする以外の返答が見えてきます。
自分の希望を口にすること自体に後ろめたさを感じるなら、まず自分を優先することと、わがままになることの違いを確かめてみると、返事の前提を考えやすくなるかもしれません。
引き受けられる範囲が見えると、相談が具体的になる

冒頭の仕事の依頼で、必要なのは「相手に嫌われない言い方」を見つけることだけでしょうか。
今どこまでならできるのか、何が難しいのかが自分の中で曖昧なままだと、返答も曖昧になります。引き受けたつもりはないのに、相手は任せたつもりでいる。そんな行き違いが起こることもあります。
たとえば、今日中の対応はできないが、明日なら時間が取れる。あるいは、今の仕事と両方はできないので、優先順位を決めてもらう必要がある。状況が具体的になれば、相手も依頼の仕方を考え直せます。
ただし、断るたびに代案まで用意しなければならないわけではありません。できないことを伝えるだけで精いっぱいの時もあります。相手の困りごとを最後まですべて解決することを、断るための条件にしなくてよいのです。
引き受ける範囲を明確にするのは、人を遠ざけるためだけではありません。できることを無理なく引き受け、途中で相手を恨まずに関わるためでもあります。
相手が残念がることまで、なくさなくてよい

丁寧に断っても、相手が残念そうにすることはあります。期待どおりの返事でなければ、困ることもあるでしょう。
その反応を見ると、急いで「やっぱり大丈夫」と言い直したくなるかもしれません。けれど、相手に残念な気持ちが生まれたことだけで、自分の返答が間違いだったとは決まりません。
こちらにできるのは、相手の事情を聞き、自分の状況を誠実に伝えることです。相手がどう受け止めるかを、すべて思いどおりにすることはできません。
同じように、自分がお願いする側になったときにも、相手が断ったり、別の提案をしたりする余地を残したいと思います。自分の「できない」を尊重してほしいなら、相手の「できない」も、一度受け止めてみる。その往復があってこそ、お互いに返事を選べる関係になります。
これは、断れば誰とでも良い関係になれるという約束ではありません。強く責められる、脅されるなど、安心して話せない関係では、説得を続けることよりも距離や周囲の助けが必要な場合もあります。
断れる余地があるから、自分で引き受けることもできる

一度「ここまでは難しい」と伝えたら、その後も同じ対応を守り続けなければならない、ということではありません。
予定が空いた日には、手伝いたいと思うかもしれません。普段は難しくても、大切な人の急な困りごとに、今回は力を貸すと決めることもあるでしょう。
自分を守ることを大切にしながら、状況に合わせて関わり方を変える。その柔軟さも持っていたいのです。前に引き受けたから次も当然に引き受ける、と決めなくてよいし、前に断ったから今回も断る必要はありません。
大事なのは、相手の反応が怖くてそうするのか、自分の状況を確かめて選んでいるのかという違いです。迷ったり、すぐに返事ができなかったりしてもかまいません。
安心して「できない」と言える余地があることは、安心して「やりたい」と言える余地にもつながります。断ることが目的なのではなく、自分の意思で関わりを選べることが大切なのだと思います。
最近の頼まれごとを一つ思い浮かべたとき、その返事には、自分も相手も選べる余地があったでしょうか。
こうした関わり方は、言葉を覚えるだけでは自分のものにならないこともあります。実際の場面を振り返りながら、自分が安心して関われる範囲や、無理をしやすいところを知っていく。その学びを深めたい方に、プロコーチジャパンではコーチとの対話と実践の機会を用意しています。

