上司に状況を説明したのに、「それで、あなたはどうしたいの?」と聞き返される。

必要な情報は伝えたつもりなのに、相談が前に進まない。そんなとき、足りないのは説明の量ではなく、相手が判断できる形への整理かもしれません。

私は企業でコーチングをするとき、マネージャーの方々に「上司に考えさせるな」という仕事のスタンスをお伝えすることがあります。

少し強い言葉ですが、上司に相談するな、という意味ではありません。上司が意思決定するための「思考の前工程」を、できる限り自分で引き受けるということです。

情報の報告から、判断の準備へ

「問題が起きました。どうしましょうか?」という相談では、何を確かめ、どんな選択肢を考え、何を優先するかまで、相手に委ねることになります。

もちろん、自分だけでは分からないこともあります。それでも、分かっていることと分からないことを分け、自分なりの考えを添えることはできます。

私が大切にしているのは、次のような準備です。

  • 何が起きているのか。確認できた事実は何か。

  • 原因をどう考えているのか。まだ確かめていないことは何か。

  • どのような選択肢があり、それぞれにどんな利点・難点・リスクがあるか。

  • 自分はどの案を選びたいのか。その理由は何か。

  • 相手には、何を判断してほしいのか。

資料を厚くするための項目ではありません。相手が、最初から問題を組み立て直さずに判断できるようにするための整理です。

私はこれを、「上司が決断できる状態をつくる人」になる、参謀型の仕事と考えています。

「私はこう考えます」に、理由と判断点を添える

たとえば、提出予定の資料に修正が必要になり、期限までにすべて直すのが難しい場面を考えてみます。

「間に合いそうにありません。どうしましょう?」と伝えるだけでは、上司は状況の聞き取りから始めなければなりません。

そこで、相談を次のように整理してみます。

「修正が必要なのは、この二つです。お客様の判断に必要な部分を先に直して予定どおり提出する案と、提出日を相談して全体を仕上げる案があります。私は前者を提案します。ただし、未修正の部分があることを明記する必要があります。この進め方でお客様に相談してよいか、ご判断いただきたいです」

これは説明のための例ですが、何が起きていて、どんな選択があり、自分はどう考え、何を決めてほしいのかが見えてきます。

自分の提案が採用されることだけが目的ではありません。別の案を選ぶとしても、比較できる材料があれば、対話はそこから始まります。

そのためには、上司が何を大切にし、何を基準に判断しているのかを理解しようとする姿勢も必要です。納期なのか、品質なのか、お客様との約束なのか。自分の好みだけで案を選ばず、仕事の目的に照らして理由を伝えるのです。

考えて提案することと、早く助けを求めることは両立する

ここで、「提案が完成するまで相談してはいけない」と受け取らないでください。

影響が大きくなりそうな問題や、自分の判断できる範囲を超えたことは、早めに知らせる必要があります。そのときには、「ここまでは確認できました。ここから先が分からないので、まずこの点を相談したいです」と伝えればよいのです。

上司の側にも、相手が考えるための条件を渡す役割があります。何を任せ、どこから相談してほしいか。その境界が曖昧なままでは、提案する側も迷います。

任せる側の関わり方については、「任せた仕事を、途中で取り戻していませんか」で、判断できる範囲の渡し方を掘り下げています。

任せた仕事を、途中で取り戻していませんかプロコーチジャパン · 読みもの

一人ひとりが自分なりに考え、次の人が判断しやすい状態をつくる。上司もまた、その上の上司に対して同じように仕事をする。

私は、その積み重ねが組織の「当たり前」を変えていくのだと思っています。個人の仕事のスタンスが変わることで、情報の届き方や、組織の動き方も変わっていくからです。

次に相談する一件だけ、最後の言葉を少し変えてみてください。

「私はこう考えています。ここについて、判断をお願いしたいです」

その一言を添えるために、今、自分が整理できることは何でしょうか。


本記事は、山家正尚のFacebook投稿をもとに、具体例と問いを加えて再構成しています。