「目標は、何度も伝えているはずなのに」

そのように感じたことはないでしょうか。

経営会議では、目指す方向に全員がうなずいている。年度方針も、数値目標も、言葉としては共有されている。それでも実行の段階になると、部門によって優先順位が違い、意思決定の速度に差が生まれ、いつの間にか足並みが揃わなくなっていく。

なぜ、同じ目標を見ているはずなのに、組織は一つにならないのでしょうか。

そこには、目標そのものとは別に、私たちが見落としやすいものがあるように思います。

目標は「行き先」、対話は「進み方」を整える

たとえば、「売上を伸ばす」という目標があったとします。

ある人は、新規顧客の獲得を急ぐことだと受け取ります。別の人は、既存のお客様との関係を深めることだと考えます。さらに別の人は、将来に備えて商品や組織の基盤を整えることを優先します。

目標は同じです。しかし、その言葉から見えている景色は同じとは限りません。

どの時間軸で考えるのか。何を守り、何を変えるのか。どこまでのリスクを受け入れるのか。そして、自分は何を担うのか。

こうした目に見えにくい前提が揃っていなければ、同じ行き先を掲げても、選ぶ道は少しずつ分かれていきます。

だからこそ、組織に必要なのは、目標を繰り返し伝えることだけではありません。その目標を一人ひとりがどう受け取り、どのような意味を見いだしているのかを、対話によって確かめていくことです。

組織を動かすのは、言葉の奥にあるもの

私は以前、女子アイスホッケー日本代表チームのメンタルコーチを務めていたとき、選手たちにメトロノームの同期実験を見せたことがあります。

一人ひとりの能力は高く、チームの目標も共有されている。それでも、仲のよさの奥に、まだ十分に話し合えていないことがあるのではないかと感じていました。

メトロノームは、同じ場所に置かれているだけで揃うのではありません。互いの揺れが伝わる土台があることで、少しずつ影響し合い、リズムが近づいていきます。

組織における、その「揺れが伝わる土台」とは何でしょうか。

私は、組織にとっての「動く台」は、対話なのだと思っています。そこで、選手同士だけでなく、選手とスタッフ、スタッフ同士も含め、コミュニケーションの量と質を高めることに取り組みました。

ここでいう対話は、情報を伝達することだけではありません。相手が何を見ているのか。何を大切にしているのか。何に迷い、どこに違和感を持っているのか。結論だけではなく、その背景にある考えや感情にも耳を傾けることです。

言葉にしなければ見えないものがあります。一方で、言葉になった瞬間に、初めて一緒に扱えるようになるものもあります。

沈黙は、必ずしも合意ではない

会議で反対意見が出なかったとき、私たちはつい「合意できた」と考えます。

けれども、沈黙の理由は一つではありません。

納得しているのかもしれません。まだ考えがまとまっていないのかもしれません。立場の違いから、言わないほうがよいと判断しているのかもしれません。あるいは、「どうせ言っても変わらない」と感じている可能性もあります。

表面上は穏やかでも、内側では認識のずれが残っている。そのずれは、実行の場面で初めて表に現れます。

「会議では決まったのに、なぜ動かないのか」と問う前に、本当に共通理解が生まれていたかを振り返る必要があります。

合意とは、全員が同じ意見になることではありません。

違いがあることを知ったうえで、何を共通の土台とし、どの方向へ進むかを、ともに選べる状態をつくることです。

まず、三つの問いから始めてみる

組織の対話を増やそうとすると、大きな研修や制度を考えたくなるかもしれません。けれども、始まりはもっと小さくてよいのではないでしょうか。

次の会議で、結論を急ぐ前に、三つの問いを置いてみてください。

「私たちは、いま何を同じように見ているでしょうか」

「同じ言葉を、同じ意味で使っているでしょうか」

「まだ言葉になっていない違和感は、どこにあるでしょうか」

すぐにきれいな答えが出なくても構いません。大切なのは、答えを揃えることよりも、それぞれの見方を持ち寄れる場をつくることです。

異なる意見が出るのは、組織がばらばらだからとは限りません。それだけ多くの視点が、組織の中に存在しているということでもあります。

その違いを抑えるのではなく、対話を通じて次の意思決定に生かせるなら、違いは組織の力になります。
会議で問いを置いたあと、出てきた声をどう受け取るかは、「仲のよい組織ほど、対話が必要な理由」で、背景を聴き、理解を確かめ、決定事項を共有する流れを紹介しています。

仲のよい組織ほど、対話が必要な理由プロコーチジャパン · 読みもの


一つになるとは、同じになることではない

組織が一つになるとは、全員が同じ考え方を持つことではありません。

異なる立場、経験、価値観を持つ人たちが、互いの見ているものを知り、共通の目的に向けて力を合わせられること。そのためには、目標を示すだけでなく、言葉の奥にある前提や思いを交わし続ける必要があります。

目標は、組織に方向を与えます。

そして対話は、その方向へ一緒に進むためのリズムをつくります。

あなたの組織ではいま、同じ目標を掲げることの先に、どのような対話が生まれているでしょうか。

この記事のもとになったFacebook投稿(8月13日)

同じ目標の奥にある、違いを確かめる

目標は共有しているのに、行動や判断がそろわない。初回オリエンテーションで、ご自身の組織で起きていることをお話しください。同じ言葉で何を伝え、どんな前提を確かめたいのかをたどり、次の対話へ持っていく問いを考える入り口にしていただけます。

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